〇〇しないと出られない部屋(シャークズ)
〈手を繋いで踊らないと出られない部屋〉
「…………」
「…………」
ノブを掴んで回そうとしてみたが、がちゃりと突っかかって扉は開かなかった。二、三度がちゃがちゃと動かしてから、紅葉ははあっとため息を付いた。むすりとした仏頂面で横の人形を見る。
「あんたと手を繋いで踊れっていうの? 嫌よ」
「ふむん」
きっぱりと言い切れば、ハズレ君が気分を害した様子もなく首を傾げた。
「んじゃ君は、吾輩とずっとここにいたいっていうのか?」
「…………」
冗談ではない。
「あんたがどうにかできないわけ?」
「どうして吾輩ならばどうにかできると思うんだ?」
質問に質問で答えられた。白々しい、と紅葉は内心悪態をつく。いつものこいつの無駄に自信満々に偉そうなやり口ならば、こんな部屋の鍵のひとつやふたつ、簡単にどうにかできそうではないか。なのに――その肝心の術者の方はといえば、最初からずっとポーカーフェイスを貫き通して、どうにかしそうな素振りがまったくない。この男でもどうにもできないということだろうか? それならばこの状況は、正直大変ピンチだということになるが……いや、仮にもし、本当にそうだとしたとしても、自分の方こそ閉じ込められているこの状況で、平然と我関せずを決め込める性根が気に入らない。
ちっ、と紅葉が舌打ちをした。
「……わかったわよ。やればいいんでしょ。やってやるわよ。歌でも踊りでもしてやるわ――でも」
その背の高い男に向き直って睨み上げれば、相手は相変わらずの気のない表情だが。
「こんなめんどくさいこと、私だけに押し付けようとしてんじゃないわよ。あんたもちゃんとやるんだからね」
「…………」
ぴしゃりと宣言した紅葉に、無表情のその男は少し沈黙して、それから、どうぞ、というように、自分の手を差し出した。
*
「……あ、開かないんだけど……?」
「…………」
一向鍵の開かないドアを前にした、気まずい沈黙の落ちた中。紅葉が腕を組むシンプルハートの顔をおそるおそる窺おうとしたとき、ひらり、と白いものが降ってきた。拾い上げてみると先ほどの条件が書かれたプリントで、どうやらそのプリントが、扉に書かれた文字を隠していたらしい。
プリントの下にあった文字は、今度はテープで貼られた紙ではなく、木製の扉にそのまま金字で彫刻されていた。
〈どちらかが死なないと出られない部屋〉
「…………」
ひくっ、と頬を引き攣らせた紅葉の真正面から、があんとばあんが同時に鳴った。扉を蹴り飛ばした盛大な音と、強引に開かせられて大きく開いた扉。蝶番が外れたのか、おかしな角度に傾いた。
真横の本人は相変わらずの白けた顔で、人形は聞いてもいないのに、「別にどうにもできないとは言ってないぜ?」と肩を竦めた。
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