BONUS TRACK(不二子+柊)
つるりとした手触りのカードは、すっかり白紙になってしまっている(何も書かれていないカードは、緑色をしていても白紙っていうのかしら、とかちらりと思ったが、そんなことはどうでもいいので頭から叩き出して)。不二子はその表面を指先で擦って、弾いて、ぱたぱたとして、裏、表とひっくり返してみて、そうして湧き上がる興奮に目をきらきらとさせて、勢いよく彼の方へと顔を向けた。
「うわ! ほんとだ! ねえ柊、ほんとにカードの文字が消えたわよ! でもなんで文字が消えちゃったの? これって特殊なインク?」
「元々、書いていない……」
「え?」
「そして、運命に干渉している訳でもない。このカードに関していうならば、これは、ただ指を差しているだけ――何に苛立つのか、何が寂しいのか、何に困っているのか、何から逃げたいのか、その弱みを、皆……とうに知っている。知っていて、見ないようにしている……僕はそれをわずかばかり、表層に引き上げているだけだ。元々その者の中にしか存在しない弱み……認識。だからその文字は、他の者には見えないし、遭遇すれば、認識が変容して消える……そういう仕組みだ」
「――――、あっ、えーと、それで、なんだったっけ? なんで文字が消えるの?」
「特殊なインクだ」
「へええ、やっぱり! ぜえーーったいそうだと思ったのよね!」
「……そうだろうな」
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