だって注意しないから(シャークズ)
うわ、と言いそうになって口を閉じた。
ソファがあって、それを無視してその足下の床にだらり、だとかでろり、だとかの形容しか使えないような寝転び方をして、座面のど真ん中に重ねた両足を引っ掛けている。適切な使用法から、座標の軸をずらした様な扱い方。積んだ映画のディスクを、タイトルを見ずに引き抜いて崩しながら、パッケージを数秒眺め、ポテトチップスでも摘むような手つきでまた別のディスクを引き抜いて、ルールのなさそうなケースの山を作っている。
要するに、こちらがまあまあ戸惑うくらいに、かなり行儀が悪い。
「足ちょっとどけてくれる? 座れないんで」
「んー」
完全に聞き流す温度の返事を寄越して、ごろり、と寝返りをして場所がやや空く。サイドテーブルにアイスコーヒーとアイスティーを置き、ソファの端に腰を下ろす。ねー、あんたのおすすめってどれー、と、炭酸の抜け切ったソーダの声が訊いてきたので「全部」と返す。
「えー? ちゃんと言ってる? それ」
「ちゃんと言ってる」
「ふーん……じゃあなんでもいっか。これにする」
ケースの山から一つ引き抜いて、引き抜いたそれを軽く掲げてぱたぱたと振る。意外と悪くないチョイス。差し出してくるというには距離がありすぎるので、立ち上がって取り上げて再生をしにいく。
くすくす、と笑い声が聞こえて振り返った。
「あんた、〝気ぃ抜くんじゃねーぞ〟とか言ってた癖に」
文句言わないんだ、と続けて、空気を確かめるように目を細めてから、くすくすとまた堪えきれないように笑う。どこまでの校則違反なら許されるかを、教師相手に試していたみたいな顔。
おかしくてしょうがない、と言いたげな表情がちょっと得意気過ぎていたので、「いや、流石に気ぃ抜き過ぎだとは思ってる」と釘を刺したら、何故か笑い声を一層大きくされた。
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