【社外秘】魔法少女エンジェル♡クズっち

『錆びた屑でも本物になる――想像力さえあれば』

 ――――水乃星透子〈さびまみれのバビロン〉より



【前回までのあらすじ】

 強大な敵〈ナイツ・イン・ホワイト・サテン〉を前に、為すすべもないエンジェル♡クズっち。ハズレ君は、シンプルハートを大人の姿に戻すための魔法の呪文、『助けてでびる屋』を唱えさせようとするが、すでにぼろぼろのシンプルハートをこれ以上戦わせたくないクズっちは、絶対に言わないと意地を張り……。



「おいおい――何だか余計なことを考えてるみたいだが、正直そこら辺は、吾輩にとっちゃ別に大したことのないどーだっていい事で、君にそうやっていちいち思い悩まれても面倒なだけなんだぜ。なのに何をそんなにムキになってるんだ?」

 本当に、全然わかっていない顔で、シンプルハートが言う。何も伝わっていない、何もわかっていない、何も届いていない、

 〝助けて〟以外を受け取る気がない顔をしている。――どうして、

 私に〝助けて〟を言わせようとするのに、どうしてこいつは、私の〝助けたい〟は考えてくれないんだろう?

「っ、そんなの……あんたが! 〝大したことない〟って平気な顔で言うのが、一番、ムカつくからよ! あんたがそんな巫山戯たことヌカしてる間は、絶対に助けてなんて言ってやらないから!」

 怒鳴りつけてやろうと思ったのに声が掠れた。少し長い沈黙と、どうしても? と投げられた、腹立たしい程にわかり切った問い。答えようとして、ちゃんと口で言ってやらなければわかりっこない、このわからず屋に、どうしてもよ、と言ってやろうとして、けれど悔しいという気持ちに喉が塞がれて、苦しくなって言葉の代わりにぼたぼたと涙が落ちた。もう上手く息も出来ない。

 「そう」、と、声がした。少し呆れたような、困ったような、今までで一度も聴いたことのない不思議な響きの声。

 すい、と顎を持ち上げられる。

「なら、もう――仕方ないかな」

 息が注がれる。注がれて、その代わりに、私の中に入れられていた力が、全部持っていかれてしまう感覚がした。魔法みたいな顔をした嘘が解ける音。

 そうして高くなった青い視線が、私を見下ろして。

「じゃあ、クズっち。この辺でお別れとしようか」

 そうやって、そいつは、私とこいつが一緒にいた理由を、目的を、時間を、根拠を、保証を、約束を――酷く呆気ないやり方で、全部なかったことにした。


〝Magical girl ANGEL♡KUZUCCHI SEVENTZH SESSION〟clised.


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【次回予告】

 〈ナイツ・イン・ホワイト・サテン〉を倒し、行方知れずになってしまったシンプルハートとハズレ君。エンジェル♡クズっちに変身できなくなり戸惑う紅葉に、ミランダから今まで紅葉が使っていた力は、全てシンプルハートからの借り物で、紅葉は魔法少女のように見せかけられていただけの普通の女の子だったこと、そしてシンプルハートの魔法青年 だった過去を明かす。

 もう魔法少女の力はなく、できることは何もないのだから、普通の生活に戻るようにとミランダに諭され、今まで通りの日常を過ごそうとする紅葉。胸に穴が空いたままのような気持ちをやり過ごしていたある日の学校の帰り道、紅葉は、朝には鞄に入っていたはずのマジック・ミラーが無くなっていることに気付く。もうどうせエンジェル♡クズっちになることはないのだから、無くなったって構わない、と思うよりも早く、紅葉はマジック・ミラーを探すために走り出していた。

「君と奴の間には、もう何の根拠も、保証も、約束も、運命さえも残っていない――」そこで紅葉が出会った、長い前髪で片目を隠した不思議な男〝柊〟は、紅葉に静かにそう宣告し、「それでも、君は――そうしたいのか……?」と問う。

「それでも、私は――もう一度、あいつに会わなくちゃ」と答える紅葉。頷いた柊から差し出されたマジック・ミラーを受け取ると、ミラーがピンク色の光で輝き出して――

 次回、最終回! 魔法少女エンジェル♡クズっち『悪魔と涙と色づくハート』。セッショ ンスタート!


 *


「……という企画らしいんだけど、どうだい?」

「通る訳ないでしょうが」


〝Magical girl ANGEL♡KUZUCCHI〟closed.

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