ダストとステラの不毛な口論(シャークズ)
【 Stardust 】
散らばって光る無数の星。宇宙の塵。
夢みるような気持ち。
「綺麗っていうが、どうして星を綺麗だと思うんだろうな?」
「そりゃ、きらきらしているからじゃないの?」
「ああ、確かに人間は、ダイヤモンドとかイルミネーションとか、そういう光るものが何かと好きだよな。それはきらきらしたものなら何でもよくて、例えば繁華街の看板やなんかがギラギラしてるのもうっとりするのかな。家の前を取り囲むマスコミから焚かれまくったカメラのフラッシュに心を奪われてしまう? 東京の夜景はサラリーマンの残業で出来ているし、星がきらきらと瞬いて見えるのはその内部で核融合を起こしまくってがんがんに燃えているせいだが、君はハリウッド映画の悪役がダイナマイトを派手に爆発させてビルを丸ごと燃やすシーンを観ながら綺麗だなあって思うのかな」
「そ、そんなわけないでしょうが!」
「じゃあ、星と、星じゃないものとは何が違うんだ?」
「だから、だって、そーいうのと星とじゃ全然違うじゃない。星ってなんていうか、もっとこう、ロマンティックなものでしょ」
「ロマンティックねえ――じゃあ聞くが、君は星と星の間には何があると思う、クズっち?」
「へ? 星と星の間? それは……何もないんじゃないの? いやそんなことはないか。えと、小さい石、とか? ああそれよりも、確か宇宙ってガスがあるんだっけ?」
「まあどちらも間違っちゃいないが、もっと正確に言うならば、星と星の間には、主に水素やヘリウムなんかの気体と、あとは珪素とか炭素とか鉄、金やプラチナなんかの微粒子が漂っている。星間物質ってやつだな。漂ってると言っても、それらの数は地球と比べればごくごく微かで、例えば地球では、一立方センチメートルの空気に含まれる酸素や窒素、二酸化炭素の分子の数は三掛ける十の十九乗だが、宇宙では同じ立方の中に、大体一個ぐらいしか含まれない。勿論地球からじゃほぼ視認出来なくて、例え宇宙で眺めたとしてもどうでもいい屑にしか見えない」
「あの、いきなり授業みたいな話を始めないで欲しいんだけど……その、宇宙に漂ってる塵? それと星が綺麗なことが、一体何の関係あるのよ?」
「全然関係ねーだろーがって思うよな。しかしところが大アリで、そういうどうでもいいようなゴミこそが星の正体なんだ」
「そ――そうなの?」
「そうだよ。地球の上層大気なんかよりも遥かに希薄な星間物質というのは、星が死ぬときにその爆発によって宇宙にばら撒かれたもので、撒き散らされたそれらは今度はまた気の遠くなる程の時間をかけて集まって、核融合反応をしまくった果てに星になっている。塵が星になり、星が塵になる、そのサイクルを延々と繰り返している。要するに、星も屑も、本質を見てしまえば実は大して違いはないってことだよ。ロマンティックでも何でもない。幾百の星座や神話の物語を重ね、希望や未来を思い、流れ落ちる光に願いを託そうが――それでも人間が綺麗だ何だと言っている夜空の星は、元を辿ればすべてが宇宙に散らばったゴミの寄せ集めに過ぎない。夜空を埋め尽くす程の無数の星を指す星屑という言葉だって、最初は星が宇宙にばら撒いた塵の方を指していたんだぜ」
「――大した違いがないから、星はくだらなくて価値がないって言いたいんなら、その逆だって言えるはずだわ」
「では、君にとっては屑も星と同じ価値があると?」
「だってさ、ゴミも星も本当は同じもので出来ているなら、それならゴミが綺麗なものになるかもしれないって期待することだって間違ってないんじゃないの? それに、そもそも元々あったものを後から良いとか悪いとか言ったって仕方がないって言ったのはあんたでしょ?」
「ひょひょひょ。まあそれはその通りで、吾輩にとってはどちらでも大差無いものだから、どっちになったって構わないが――でも、それじゃあ結局、星と星じゃないものは、何が違うのかわからないな」
「なによそれ、どういう意味よ?」
「星屑で出来ているならば、きっと綺麗で素晴らしいもののはずだ、ってことだろ? そう夢見てしまう気持ちは特に否定しないが、でももしもそれが本当に正しいというならば、むしろそこから外れるものを見つけ出す方が難しいんじゃねーのかな、ってことだよ。そうだろ、太陽も地球も同じように星屑から生まれているし、言ってしまえば君だって、星の欠片で出来ているんだぜ」
「…………あのさあ、実はあんたの言ってることの方が、よっぽどロマンティックなんじゃないの、これ?」
〝STARDUST〟closed.
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