祝福(水ギノ/ギノ→酸)

〝ギノルタ・エージの話聞いたか? 近々監査部門のトップに立つそうだ〟

〝噂には聞いていたがとんでもないな……元々大した能力じゃないと思われていたんだろう? 人を気絶させることにしか使えない、とかなんとか。今じゃ考えられないな〟

〝まったくだ。実際にはあんなに強力な能力だった訳だからな。ああも規格外だとは……正直、彼がMPLSだと言われても驚かないよ〟

〝はは、違いない。まあでも、規格外なのは当然だろう。なんせ彼は、中枢に直々に見出されたんだからな〟

〝いずれはナンバー2か。その時には、機構もより堅固なものとなるんだろう〟



「あなたには二つの運命がある」

 甘くもなく、優しくもなく、温かくもなく、ただただ透き通ったその声が言う。

「このまま統和機構に心を捧げる運命と、私の手伝いをしてくれる運命」

 長い流れるような黒髪が、風に煽られて頬に触れる。するりと柔らかく頬を撫で、また離れようとしたその髪を、衝動に駆られて手を伸ばした。伸ばして、そして、ああ、そうか、と思った。

 俺がこの運命を選ぶと知っていたから、だからあの方は――

「私は、あなたが私の運命になってくれたら嬉しいのだけれど」

 酷く透明なその人の、細い糸に似たその髪は、まだ手の中に留まっている。いとも容易く、引き止めたいと、そう彼が望んだ通りに。

(……よかった)

 その途方もない安堵が、祈りと言い換えられるかどうかなど、もはや判断をしなくてもいいのだと、彼は救われるような気持ちで思った。

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