Merry Christmas 2020(長谷柊+シャ)

 小さく丸い電球の粒を繋げたイルミネーションは、確かに星のように見えた。柊はそれを三階から見下ろした。マンションに伸びる長い街路樹を、眺めながらいじらしいことだ、と思う。銀杏の葉はとうに落ちたのに、冬も金色になろうとするらしい。

 光の粒が、いつもなら夜に混ざり見分けられない歩道の形をなぞるので、柊はなんとなくヘンゼルとグレーテルを思い出す。帰り道がわからなくならないようにと、幼い兄妹が道に落とした白く光る石たち。手の中がじわりと温まり、マグカップを左に持ち替える。器の中身はコーヒーで、シンプルハートが淹れたものだ。ベランダに出ようとした柊に向かってやや眉を顰め、自分で飲むつもりだったらしいコーヒーを「右手は冷やすな」と柊に寄越してきた。妙に過保護に扱われているお陰で――右手だけだが――氷に近い温度の空気の中でも利き手ならば滑らかに動く。

「…………」

 ぺたりと薄いスマートフォンを取り出して、返事をし損なっていたメッセージの返事を打つ。それから画面を軽く叩いて、背面のライトを光らせた。街路樹の方向に向けてひらひらと振ってみる。数秒せずにスマートフォンがぶるぶると震え、柊は特に画面を確認せずに耳に当てた。

「……ああ……、僕だ。今……そう。別に急がなくてもいい……降りてもいいが。いや……、じゃあ、ここで」

 電話を切り、ライトを消す。並々と注がれたコーヒーに、柊はようやく口をつける。もうわざわざ温める必要もない。

 部屋に戻るガラス戸に手をかけてからもう一度振り返ってみれば、街路樹が途切れた夜の色の道にひとつ、白い光が揺れていた。


-

隣の柊さん時空 プレゼントしたもの

0コメント

  • 1000 / 1000