トラフィック・ジャム(ウェルター+旧フラリー)

「ウッソォ、ヤダ〜〜〜〜〜〜〜〜! フラリーちゃん、カッワイ~~~~~~~~~~~~!!」

「っ……!」

 やたらに高い頭のてっぺんからやたらに長い足の先までやたらに真っ黄色のその人が、その黄色よりももっとずっと黄色い声を出した。顎に両手のこぶしを当てて、眉を下げて、目が爛々と光っている――その視線の先に私がいて、肉食動物の標的にされたような気持ちになって、喉奥がヒッと変な音を立てた。逃げ出せなかったのは最初の一声の時点で既に距離を詰められていたからで、しかも私はベンチに座っていて、私と足と足の間には、彼の足が割り込められていた。黄色い男の人はずっと、酷く機嫌良さそうに笑っている。両手が伸びてきて、私の頬を挟んで上を向かせた。

「髪の毛赤~い。てか短けぇね、ずっと短かったの? あっ、ここくるんってしててカワイ~」

 長い指が私の髪を掬って絡ませてくるくると弄ぶ。セクハラ、痴漢、変質者? 動かない体の中で、寒気と鳥肌と冷や汗の感覚だけが生々しい。助けを、誰かに、ああ、ああだめだ、声が出ない。目を見開かせたまま硬直している私を、隅々までしげしげと眺め回してから、その黄色い男はちょっと目を細めて、初々し~、と歌うように言った。君ホントにフラリーちゃん? 超ウブじゃん、滅茶苦茶ショジョっぽくて興奮しちゃうわ。

「な、なん、」

 なんで私の名前を知ってるの、が、最初からずっとわからない。会ったこともない、話したこともない、知らない、得体の知れない黄色い男。私に好意のようなものを向けて、まるで親しい恋人のように触れてくる。長い指先が頬を滑って顎を引き上げる。触れられたところから凍えるように寒くなる。黄色い目はますます細くなる。夜の三日月のような瞳。好意――本当に?

「唇も真っ赤じゃん。あーあー」

 落とすの手伝ってあげる、と言って、その黄色い男は顔を近づけて、私の唇をべろりと舐めた。そして聞き分けのない恋人をあやすような、やれやれと言いたげな甘く気だるい声で、早く死んじゃおうねえ、と私の耳元へ囁いた。

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