過呼吸(水ギノ/ギノ→酸)
いずれこうなると思っていた。いずれ、いずれ、いずれ、いずれ、いずれいずれいずれ――、きっといずれと、ずっと。
細い指が喉にかかる。息が締め上げられる。頭の中が白く霞む。空気がぎりぎりと引き攣れて、それよりも尚軋んだ声がいう。
『――どうして、』
触れられた部分から、火傷をしそうに熱い。酷く。
『どうして僕を裏切ったんだ、ギノルタ……』
似つかわしくはない、相応しくはない、この方らしくはない熱。激情。溺れるような感覚がする。呼吸をすべて奪い去る細い指。終わる前に口を開いたが、もう息は出来なかった。
そうだった、と思い出す。俺の呼吸一つさえ、この方の思うままなのだったと。
目を閉じる。
「――――あら、起きてしまった?」
柔らかな声と、透き通った笑顔がこちらを向いている。これはなんだったか、と思う。游ぐような足取りで側に立ち、華奢な体をソファへ沈ませる。軽い重みにきしりと引き攣れた音がして、その音で正気が戻った。体を起こす。
「ああ、いいのに」
くすくす、と笑い声。さらりとした指先が髪に差し込まれ、あやすように梳かれる。
「魘されていたら、起こしてあげようと思っていたの」
「ああ、だから……起こしてくださったのですか」
「いいえ?」
一層優しく微笑まれる。礼の言葉を言おうと開きかけた口が中途半端に止まる。少しばかりの困惑。花に触れられるような温度が髪を撫で続けている。
「起こさなかったわ、私は。とても安心した顔をしていたもの。せっかく良い夢なら、醒めてしまったら悲しいでしょう?」
だから、あなたが起きちゃったのは私のせいじゃないのよ。怒らないでね。――そんな顔をしないで?
何度目かの息を吸うと眩暈がした。頭痛と吐き気。指先が痺れている。血液が逆流して心臓の音が波立っている。息を吸い、吸って、吸って、吸って――息をしていることを確かめさせる。
もう息が止まることはないことを思い出す。
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