2025.05.17 00:00身から出た錆(ギノ酸) 雑踏の中、頭二つ分高い後ろ姿が見えて眉を顰めた。足を引いて方向を変えかけて、それよりも一瞬早く、こちらを向いたそいつと目が合う。そのまま大股で早足にやってくる――舌打ちをひとつ。「ギノルタ……! この辺りで猫を見かけなかったか? 黒と茶色のサビ猫というやつで、」「知るか」「そ、そうか……すまない、急に引き止めて」「本当にな」 言い、踵を返しかけ、少し引っかかって振り返った。「……猫?」 眉を顰め...
2025.05.17 00:00ミルクと狸と深夜二時(長谷酸) どこにでも〝潜れる〟とはいえ、どこもかしこもそうして済ませるほど無精というわけでもないので、長谷部は渡されていた鍵を素直に回して扉を開けた。チェーンを外されていたのは幸いだった。チャイムを鳴らして中の者を呼び付けたくなかったのは、詩歌が眠っているかもしれないと思ったからだ。深夜二時の少し手前。彼女の状況が状況ではあるから、もしかしたら不安で眠れていないということもあるだろうが、もしも眠れているの...